井上尚弥劇場の将来を占う:タパレス戦後にモンスターを待ち受けるのはだれか|12.26 スーパーバンタム級4団体統一戦

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Naoya Inoue
時事通信

12月26日(火)、いよいよ井上尚弥がスーパーバンタム級世界4団体王座統一戦に臨む。マーロン・タパレスは強敵だが、その先に待つであろう猛者たちとの階級を越えたマッチアップについての議論が、業界関係者やファンの間でかわされている。では、実際にその実現性はどうなのか。

名門『The Ring』誌(リングマガジン)元編集人で本誌格闘技部門副編集長として一言を持つトム・グレイが、噂されるファイターを5人選出。そしてそのマッチアップの実現性を踏まえて紹介する。

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躍進を続けるモンスターと、階級違いの猛者たちとのマッチアップは実現するのか

『ザ・モンスター』の異名で知られる井上尚弥は、これまで4つの階級で25人の対戦相手をなぎ倒してきた。この現WBC/WBO世界スーパーバンタム級王者の次の試合は、12月26日に東京の有明アリーナで行われるWBA/IBF王者マーロン・タパレスとの王座統一戦である。

タパレスが井上を脅かすことを予想するファンや専門家は多くない。これはタパレスの実力が不足しているというわけではない。このフィリピン人サウスポーの経歴はチャンピオンに相応しいものだ。パンチ力はあるし、勇気あるファイターでもある。ただ、『ザ・モンスター』の無敗記録を止めるほどのファイターには見えない、というだけのことである。

そうなると、井上のさらにその先の対戦相手を予想したくなるのが自然だ。今年7月にスーパーバンタム級へ転向した井上は、その階級の初戦でそれまで無敗だったスティーブン・フルトンを一蹴した。そのわずか5か月後に同階級4団体王座統一をはたそうとしているのだ。

井上はさらに階級を上げるのだろうか?

以下は、業界で噂される井上とのマッチアップから5カードを選出した。彼らの階級はスーパーバンタム級からライト級にまで及ぶ。

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井上尚弥 vs. ルイス・ネリ

井上がタパレスに勝てば、(復活したムロジョン・アフマダリエフを別とすれば)スーパーバンタム級で井上と戦うだけの価値を持つ対戦相手はネリしかいない。そしてそこには遺恨のストーリーと話題性がある。

ネリ(34勝1敗、26KO)は、元バンタム級世界王者だ。2017年に日本人ボクサーの山中慎介をノックアウトし、タイトルを奪った。しかし、試合後にこのメキシコ人ファイターは禁止薬物(ジルパテロール)の陽性反応が出たと発表され、その名声は地に落ちた。

メキシコに本拠地を置くWBCはこの件について調査し、陽性反応は食物から出たものと判断した。ネリのタイトルはそのままとなった。しかし、ネリは再び失態を犯す。山中との再戦においてネリは計量でバンタム級の体重を3ポンド(約1.36キロ)超過してしまったのだ。

試合はキャッチウェイトで行われ、ネリは2ラウンド目に山中をノックアウトした。しかし、日本ボクシング界(JBC)はネリのプロ意識に欠けた行為に強い怒りを表し、日本における無期限の活動停止処分を下した。さすがのWBCもネリのタイトルを剥奪した。

こうした背景からイベント開催地に議論の余地は残るものの、井上には日本ボクシング界を代表してのリベンジに期待がかかる試合になるだろう。

実現性:開催地問題を解決すれば、あり得る

井上尚弥 vs. ロベイシ・ラミレス

オリンピック金メダル(ロンドン五輪、リオ五輪)を2度獲得したラミレスは、まだキャリアを代表するような大試合を経験していない。しかし、その才能のレベルには疑いの余地はない。

このキューバ人サウスポーはすでにWBO世界フェザー級王座を獲得しているが、大物の称号を得るのはこれからだ。無限大の可能性を感じさせ、パウンド・フォー・パウンドのリスト上位にも近づいていた。

29歳のラミレスはオリンピック金メダリストに相応しいテクニシャンのタイプだが、それだけではない。1発のパンチ力も相当なものだ。それまで無敗だったアブラハム・ノバをノックアウトした試合がそのことを証明している。

そんなラミレス(13勝1敗、8KO)は日本のファンも知った顔だ。井上 vs. フルトン戦のアンダーカードで清水聡をノックアウトしているのだ。ラミレスが井上と同じくトップランク社のプロモートを受けていることも良いニュースだ。この対戦は意外に早く実現する…かもしれなかった。

12月9日、ラミレスはラファエル・エスピノーサにまさかの0-2判定負けを喫し、WBO世界フェザー級王座から陥落したことで、状況が様変わりしてしまった。ダイレクトリマッチでの王座奪還、あるいはムロジョン・アフマダリエフのように自力でタイトル挑戦権を勝ち取るか、別の団体タイトルを手にすれば、再び遡上にあがるかもしれない。

実現性:ラミレスが再浮上すれば、あり得る

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井上尚弥 vs. ワシル・ロマチェンコ

ロマチェンコはここ数年ライト級を主戦場にしているが、実のところ井上との対戦は体格的にミスマッチとは言えない。

ロマチェンコ(17勝3敗、11KO)は、キャリアを辿ればライト級だけではない。このウクライナ人ファイターはまだスーパーフェザー級でも戦える。近い将来にフェザー級に上がると思われている井上から、そうかけ離れているわけではないのだ。

最初に触れたように体格的にも渡り合える可能性がある。ロマチェンコの身長は170cmだが、リーチでは井上の方が長い(井上171cm、ロマチェンコ166cm)。それにロマチェンコは体格に物を言わせるような戦い方はしない。この元3階級世界王者は素早いフットワークとパンチの切れが身上だ。

悪いニュースと言えば、ロマチェンコが35歳でキャリア晩年にさしかかっていることだ。元ライト級統一王者のジョージ・カンボソス・ジュニアとオーストラリアで対戦するという噂もある。井上との対戦が実現する可能性はかなり低いのが実情だ。

実現性:かなり低い

井上尚弥 vs. シャクール・スティーブンソン

スティーブンソン(21勝0敗、10KO)はライト級では新顔であり、現WBC王者でもある。井上と同じように、このニュージャージー州ニューアーク出身のテクニシャンは階級の階段を徐々に登ってきた。フェザー級とスーパーフェザー級でも世界タイトルを獲得したことがある。

スティーブンソンは、パウンド・フォー・パウンドでも世界で屈指のボクサーだ。スピード、反射神経、そしてボクシング技術のすべてを備え、どの階級においても優れた戦績を残してきた。

残念なことに、井上はスティーブンソンの視野には入っていないようだ。10月、米専門メディア『Boxing Scene』の取材に対し、「(井上よ)階級を上げて俺と戦おう」と答え、その才能を称えたが、同時に「(自分に対して)身体が小さすぎる」とも評しており、リップサービスに近い印象があった。

目下スティーブンソンはライト級において、デビン・ヘイニー、ライアン・ガルシア、ワシル・ロマチェンコ、そしてタンク(ジャーボンテイ)・デイビスといったスター相手との対戦を狙っている。

それでも、もしこの夢の対決が実現するとすれば、率直に言って井上はやや不利だろう。井上の身長はスティーブンソンより8cmも低いのだ。しかもスティーブンソンはキャリアの全盛期にある。無論、リングの上では何が起こるか分からない。しかし、この対戦が実現するとは思えない。

実現性:あり得ない(体格差が大き過ぎる)

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井上尚弥 vs. ジャーボンテイ・デイビス

『ザ・モンスター』 vs. 『タンク』。業界切ってのペイパービュー・メガスターであるデイビスを相手にすることで、井上にとってもキャリア最大の報酬を生み出す巨大イベントになるだろう。

7月に井上がフルトンを下したとき、WBA世界ライト級レギュラー王者デイビスとの対戦を望む声が巻き起こった。デイビスの実力は井上に匹敵すると思われているからだ。2人とも抜群のスピードと技術を備え、そして1発のパンチで相手を葬るノックアウト・アーチストだ。

ただ、ここでも体格差が大きな問題になる。

デイビス(29勝9敗、27KO)はここ数年ライト級を主戦場にしているが、ひとつ上のスーパーライト級でも戦ったことがある。身長は井上と同じ165 cmだが、横幅と厚みがはるかに大きい。体格では圧倒的に有利だ。スター選手の多いライト/スーパーライト級を主戦場にするデイビスに、フェザー級まで落とすことはパフォーマンス低下のリスクもあり、あまり旨味がない。

4階級を制覇してきた現時点で、すでに過酷な肉体改造を重ねてきた井上にとっても、フェザー級すら飛び越えた階級に上げることは非常に困難な、そして狂気的な挑戦になる。

一方でデイビスにとっては巨額のカネ以外には得るものはなさそうだ。もしデイビスが勝っても、井上との体格差のせいだと言われるだろう。逆にもし負ければ、これまで築き上げてきた名声のすべてを失うことになりかねない。

格闘技界には「ネバー・セイ・ネバー」(絶対に無いとは言えない)という言葉もあるが、それでも実現されるべきではない対戦も世の中にはあるのだ。

実現性:諸問題を踏まえるとやらない方が無難

※本記事は国際版記事(Tom Gray著)を翻訳し、日本向けの情報を追加した編集記事となる。翻訳:角谷剛、編集:スポーティングニュース日本語版編集部 神宮泰暁

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著者
Tom Gray Photo

Tom Gray is a deputy editor covering Combat Sports at The Sporting News.

神宮泰暁 Yasuaki Shingu Photo

日本編集部所属。ボクシング・格闘技担当編集者。

角谷剛 Go Kakutani Photo

米国・カリフォルニア州在住。慶應義塾大学卒。主に米国でIT関連の会社員生活を経て、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つ。コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得。現在は州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。スポーツ、旅行、文化に関する多くのウェブサイトで執筆中。