投手大谷翔平がWBCで見せた「一発勝負」への気概

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大谷翔平
(Getty Images)

3月8日に開幕した第5回ワールド・ベースボール・クラシック(2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™|以下WBCも、決勝ラウンドに突入した。侍ジャパンこと日本代表チームは1次ラウンドから準々決勝までを全勝で終え、米フロリダ州・マイアミでの最終ラウンドに臨む。

日本の戦いぶりを通じてここまでさまざまな見どころがあったなかで、最大の注目だったのはやはり大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)だった。

1次ラウンドの4試合と準決勝の5試合で、打っては打率.400、1本塁打、8打点。投げては2先発で2勝、10奪三振、防御率2.08と、“世界の二刀流”が期待通りの活躍を見せた。1次ラウンドではプールBのMVPに選ばれた。

マイアミでも“打者”大谷の姿は見ることができる。ただし、“投手”のそれはもうないと言われる。所属のエンゼルスで今シーズンの開幕投手(現地3月30日)も務めることになっている大谷は、そこへ向けての調整が必要だからだ。

都合、大谷の投球は2度「しか」見られなかったことになる。だが、回数が少なかったからこそ、その希少価値が増幅したとも言えなくもない。

とりわけ、準々決勝のイタリア戦での彼のマウンドでのパフォーマンスは、見るものの目に焼き付くものとなった。

負ければそこで敗退となってしまう試合。大谷は最初から飛ばした。それは1球投げるごとに彼の口からこぼれ出る気合の声が示していた。

この準々決勝での投球は、1次ラウンド初戦の中国戦でのそれとは違っていた。それはメジャーリーグ機構で導入されているデータ解析ツール「スタットキャスト」の数字を見てもわかる。

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投手大谷がメジャー移籍後初めて見せた「一発勝負」への気概

大谷は昨シーズンから、スライダーでもより縦方向の曲がりが少なく横方向へ滑っていく「スイーパー」を多用している。中国戦ではこの球種を、全49の投球の53%となる26球も使用している。俗に「まっすぐ」「ストレート」と呼ばれる「4シーム」は同39%の19球、そしてスプリットは同8%の4球だった。

対して準々決勝のイタリア戦では、この割合が変わる。スイーパーは全71球の44%となる31球、4シームは同39%の28球、そしてスプリット(スタットキャストでは「シンカー」と表示されている)が増えて同17%の12球を投げている。

それに加えて、中国戦とイタリア戦ではそれぞれの球種の平均球速も違っていた。中国戦で平均時速136.3キロ(84.7マイル)だったスイーパーと同157.6キロ(97.9マイル)だった4シームのそれは、イタリア戦でそれぞれ138.1キロ(85.8マイル)、158.7キロ(98.6マイル)へと上がっていたのだ。

ちなみに、中国戦でのスイーパーのスピンレート(1分間あたりのボールの回転量)は平均2604だった(2022年は平均2492)が、イタリア戦では2434となった。大谷は実戦をほぼ経ず調整が十分でない状態でWBCに入ったこともあり、中国戦ではスイーパーが「曲がりすぎて」いたのかもしれない。変化球は曲がりすぎても相手に見極められやすいということもある。イタリア戦でのスイーパーは、本来の回転量に収まったと言えるかもしれない。

他方、中国チームよりもイタリアチームにより多くの左打者がいたことや、イタリアの打線が、試合後の会見での大谷いわく「狙い球をカウントごとに作って、頭を使って振っているバッターが多かった」ことで、その狙いを外すための球種選択となったところもあっただろう。

スプリットの制球とキレが良かったことも、この球種が多くなった理由だっただろう。とりわけ4回、相手の3番のドミニク・フレッチャーと4番のブレット・サリバンを空振りの三振に切って取った145キロと148キロのそれは、地面すれすれのところへ高速で落ちていく、完璧と言えるものだった。

イタリア戦で球速が上がっていたこと、そしてスプリットの割合が増えたことなどは、負けることが許されない試合で「エース」としてマウンドに立った大谷の、勝ちたいという気持ちの表れでもあり、勝利をつかむ可能性を広げる「最適解」だったのではないか。

「『万が一』が起こらないようなボールをチョイスしながら投げていくような感じでした」

大谷はこうも話した。東京ドームという狭く、本塁打の出やすい球場が舞台の試合だけに、より細心の注意を払いつつの投球となった。

一方で、4回にサリバンから三振を奪った後からボール球が多くなり、かつ球速も若干落ち始めた。さらに5回には変化球が抜けてしまい、2つの死球を与えた。この後、2点適時打を許した大谷は、降板となった。試合開始から全力投球を続け、3回裏にバントによる安打で全力疾走したことでさらに体力を消耗し、かつ握力が落ちたからだと推察される。

2021年にアメリカンリーグMVPを獲得するなど、個人としては大きな成功を収めてきた大谷だが、メジャーに移ってからの5年間、チームは一度もポストシーズンに進出していない。それどころか、シーズンの終盤にプレーオフの切符を争ったこともない。大谷は「ヒリヒリした9月」を送りたいとコメントしているが、それはいまだ叶っていない。

大谷はメジャーとWBCを別ものとして考えていることと思われるが「絶対に負けられない」という思いが、今回のイタリア戦では外から眺めるわれわれにも十全に伝わってきた。

決勝ラウンドでは、指名打者として引き続き日本チームを牽引することが濃厚な大谷。高校生の頃からWBCで優勝し、自身もMVPを獲得するという目標を立てていた。その高みへの到達は、目の前だ。


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著者
永塚和志 Kaz Nagatsuka Photo

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール、陸上など多岐にわたる競技を担当。現在はフリーランスライターとして活動している。日本シリーズやワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある。